六華だより

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  3. 第91号(2017年10月1日発行)
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今、何をしているか、すべきか~農業関連産業に従事して

今、何をしているか、すべきか~農業関連産業に従事して

小林伸行(南40期)

 家族や友人に「どんな仕事しているの?」と聞かれ、「農業関連だよ。」と答えると、「どんな物作ってんの?」と言われ、「作物は作っていないよ。」と続けると、「よくわかんないな」という会話の繰り返しになります。私自身、自分の仕事内容を細かく説明するのが少々面倒になっている日々です。

 図1にあるように農業と言っても、作物生産に関連する業態は多数あります。どれが欠けても農業という産業は成立しないのです。「農業」であれば、作物を作るということで説明がつくのですが、「農業関連」となると、農業機械や情報提供、販売流通などの直接、作物生産に紐づく分野を想像されます。しかし、私はこれらの直接紐づいているものほぼすべてに関わる仕事をしております。図1中にある「スマート農業」という分野です。

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図1 農業分野イメージ図

 スマート農業とはロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化や精密化などを進めた次世代の農業と言われていますが、農家人口が減る中、現状の農地での生産を維持、もしくは、農地の性能を最大限に活かして収穫量を高めるものです。過去には大型の農作業機器を導入して作業効率を高めることが進められていましたが、これをさらに進め、例えば、一人の農家が複数の農作業機器を同時に稼働させ、労働時間を大幅に短縮することや投入する農業資材(肥料・農薬等)を均一ではなく、必要な個所のみに適量投下することでコストを削減するといったことを実現するものです。また、これらの作業内容をデジタル記録することで過去の振り返りや新規就農者の自立化促進に向けた資料とするものです。

 スマート農業は私が学生時代(平成一桁)の頃から研究開発が進められ、近年、ようやく実用化が進んできたものです。そのため、認知度が低かったり、それぞれの技術の部分が個別にクローズアップされるがため、なかなか説明が難しいものです。

 私は、大学院修了後、航空測量、システム開発、シンクタンクと複数の企業に勤務し、農業の高度化に向けた技術開発やそれを実現するための法制度改変等の業務に携わってきました。欧米諸国に比し、食料自給率が低い日本が将来生き残るには、どのようなことがあっても日々の食料を確保することが必要であるということは建前で、人間がどうしても制御ができない自然環境の中で、日々、格闘する農家さんのたくましさに憧れを抱いたというのが本音です。しかし、総合的にスマート農業の分野を網羅する企業が不足しており、私自身もこれを進めていきたいという思いから、平成26年に会社を設立しました。

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図2 水稲・小麦の差作業概要

 現在の仕事は、多岐にわたっています。今の主な業務は農家さんの要望に応える技術の提供、そして、その効果を数値で示すことです。
 作物生産では先述のようにどれだけ労力を削減するかが課題となっていました。これに続いて、無駄な作業を行わず、効率性を高めることが求められています。図2に示すようにこれは作物種が増えるに従い、作業時期が重複する時期もあるため、必要な作業をいつ行うかの判断材料が必要となるからです。これに資するため、現在気象観測機器を設置して、その情報を解析の上、作物ごとの生育予測、病虫害発生予測、収量予測を作成して配信しています(図3)。また、気象観測機器が設置されていない個所では、人工衛星を活用して収穫時期予測マップを提供しています(図4)。

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図3 気象情報を活用した支援情報配信例

 

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図4 衛星を活用した刈取時期マップ

 これらにより、農作業を行うための基礎的な情報の提供を行っておりますが、農家さんの要望で、さらに農作業機器走行時の無駄の削減を求められました。
農作業機器の走行時には、人の目で行うためマーカー跡や走行跡を目印にして走行することとなります。そのため、どうしても重複作業箇所が発生してしまい、作業時間をロスすることとなります。これを解消するには、GPS(Global Positioning System)のような測位衛星を活用した農作業機器の自動走行化が必要です。また、農地の端での旋回も時間を要します。これを解消するためにもこの技術が必要とされました。既に農作業機器に搭載するハンドル制御機器が販売されており、これに対し、重複作業箇所が発生しない走行ラインを作成するソフトウェアを構築して利用していただいております(図5)。将来的には、自動走行の農作業機器も一般化し、新たなステージに上がることになります(図6)。

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図5 農作業機器走行ライン概念

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図6 自動走行支援機器(左)、完全無人トラクタ(右)

 農業は今までトータルで注目されてきたことは無いように思われます。それは、関連する内容が多岐に渡り、理解しにくいということがあります。例えば、大学の農学部では学科が多数あります。私も入学時になぜこれほどの学科が存在するのか理解できませんでしたが、生産に関わるものだけでも生物学的、化学的、工学的な知見が必要であり、さらにはそれを一つの産業として成り立たせるためには経済的な知見も必要であるからであると実際に職に就いてから感じ取りました。

 スマート農業という言葉も最近ではCMや情報番組で取り上げられ、少しづつ広まってきたと感じています。ようやくスタートした段階です。自身も現状に満足してしまうと5年後、10年後に知識が枯渇するという恐怖感をいつも持っています。これは、高校時代、入学したことに満足してしまい、学業に関して周りに置いてきぼりになってしまった反省です。そのため、将来を見据えて、新たな技術知見の習得も進めております。UAVの活用、そしてAI(人工知能)の利用です。さらには、生産作物の販路開拓、技術の海外移転です。

 技術知見の習得では国の実証事業に参画し、大学、試験研究機関とともに先進的な技術を開発し、実用化することに努めております。また、日本の新たな産業として、農業分野の技術を海外に広めることも重要と考えています。日本が打ち上げている準天頂衛星「みちびき」の周回軌道はアジア・オセアニア地域であります(図7)。現在広く利用されているGPSに代わる日本独自のサービスを展開したいと考えています(写真)。

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図7 準天頂衛星及び軌道

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インドネシア農業省関係者との記念写真(筆者右端)

 卒業から既に30年近くを経ておりますが、高校時代の怠慢による反省は今でも心の中にあります。入学までは、さほど学力に不安を抱かなかったのに、自分より優秀かつ視野の広い人材が多々いることに落胆し、そこから自分を見つめなおし、どうすれば自分もそのような人材になれるのであろうかと葛藤していました。未だその解は見つかっておりませんが、日々精進することでいつか、胸を張って同窓に自分が今何をしているのか言えるようにしたいと思う日々です。

小林伸行 プロフィール
株式会社スマートリンク北海道 常務取締役
1971年、北海道札幌市に生まれ
酪農学園大学特任研究員
総務省北海道総合通信局「ロボット農業の高度化のための技術的条件等に係る調査検討会」委員